REPORT

イベントレポート

オープニングトークイベント

「荒浜の夏に、ふたたび海をひらく」ことをテーマに、かつての荒浜、いまの荒浜、これからの荒浜を考えていくトークイベントです。企画・運営は荒浜の夏、ふたたび海へ実行委員会。会場はせんだい3.11メモリアル交流館。
7月2日(土)に開催されました。

オープニングトークイベント

暑い中、約40名の方にご参加いただき、トークイベントは始まりました。最初に実行委員会代表の武田こうじより、イベントの概要や実行委員会とはどのような組織なのか、説明がありました。テーマ自体が、イベントのタイトルでもあり、実行委員会の名称でもあるという、今までにない企画で、さらに、海をひらくイベントなのに海水浴ができない、ということで、来場してくれた方たちもいろいろと気になっていたようでした。

オープニングトークイベント

このイベントは「なぜ、このテーマ」で「この内容なのか」をみなさまに伝えることで、様々な課題に対して継続して取り組むにはどうしたら良いのか、ともに考えていけたらという思いがありました。そして、そこに至る経緯と、今後を考えるためのヒントとして、ゲストの方たちとの対話がありました。

ゲストとしてご出演いただいたのは、荒浜地域で継続して活動をしている、海辺の図書館/フカヌマビーチクリーンの庄子隆弘さん。HOPE FOR project/荒浜灯籠流し実行委員会の高山智行さんです。(進行/実行委員会代表:武田こうじ、今までの経緯の説明/仙台市文化観光局観光交流部観光課長:日下和彦)

庄子隆弘さん

庄子隆弘さん(以下:庄子):元荒浜住民で、いまは自宅跡地に海辺の図書館というのをつくり、様々な取り組みをしています、庄子と言います。今日はよろしくお願いします。

海辺の図書館

高山智行さん(以下:高山):高山と言います。勤務しているところは震災遺構荒浜小学校になります。そして、自分は荒浜の地域住民の方が震災後、帰ってこれるような場づくりをしてきました。3月11日に実施している『HOPE FOR project』や、夏の伝統行事だった灯籠流しの実行委員会・委員長をやらせてもらっています。本日はよろしくお願いします。

HOPE FOR project フェイスブック
荒浜灯籠流し フェイスブック

高山智行さん

武田こうじ(以下:武田):高山さんと庄子さんには、今回、アドバイザーいう形で実行委員会に関わってもらっていますが、「荒浜の海をふたたびひらく」というのは、「町をふたたびひらく」ということになる、とお二人がよく話してくださっていたことです。ぼく自身、6年前は理解できる部分と、ちょっとピンと来てない部分もあって、そこからいろいろな話をしている中で、より理解できるようになってきました。高山さんは、3月11日の企画や、灯籠流しの活動を通して、地域の方たちと関わっているということですが、活動を続けている思いとか、やりながら感じていることなどを、お話いただけますか。

高山:はい。先ほど申し上げた「場づくり」っていうのを11年間続けてきたっていうのは 、その土地に対して強い思いがあったわけでないんですね。震災後に荒浜地区で自分よりも一回り下の世代の子たちが、荒浜を見に来ている場面だったり、3月11日の企画に参加している子たちがいたりとか、この地域は何もないように見えるけど、そういった方々にとってはやっぱり何もない場所ではなくて、もともと自分の家があって、やっぱりそこが故郷だっていうふうに思っていることに、強く気づいたんです。
 土地に対して思いがないというと「なんだ」と思われるかもしれないけど、例えば、震災当時小学生の方とか、中学生の方と話をすると、そういう思いに直接ふれるわけですよね。その中で、自分がこの場所で、何ができるのかって言うのを、ずっと考えながらやってきました。
そういう中で、なかなか開かれてこなかったのが「海だったな」と思っています。
 これまでの流れがいろいろとあるかと思うのですが、海水浴場再開にあたっての6年間のこと、ここにいる皆さん知っているかわからないですけど、たぶん想像できないような金額、みなさんの税金が、この海水浴の実証イベントに当てられてきているんですね。そして、それが終わった後、アウトプットも、よく分からないというか。とてつもない金額をかけて、一体なにを検証しているんだろうなと。でも、今回はそれに似たような形ではあるけれど、そうした話し合いを経ていて。6年経っているから、今日がスタートでもないと思っているんですが、今日を機に、皆さんも、そういう意味では証人になると、ぼくは思っています。始まってから「なんだ、あのイベント」って言うのは誰でもできると思うんですが、今日話したことも記録にちゃんと残るので、 「おかしいんじゃないか」とか「これはいいね」みたいなのがあったら、皆さんも意見を言っていいと思います。 ぼくも皆さんと立場が変わらないと思って、ここに立っています。

武田:ありがとうございます。そうですね。皆さん、遠慮なくいろいろなことを話してください。ちょっと補足をさせてもらうと、6年前からの検証イベントは、たしかにひとつのイベントとしては、金額がけっこうかかっていますね。だけど、大事なのは、それを含めて、「なにを」検証したのか、ということだと思うのです。たしかに、短期のイベントは数字が出しやすい。そして、安全面とか、来場者数だとか、実際に台風が来てできなかった場合のこととか、検証されたことはあったと思うのです。そんな中で、ぼくが、ひっかかっていたのは「なぜ」やるのか、ということの説明がずっとできないままで来たことです。そのことを何回も話し合いましたし、できれば、そのことを明確にしてほしいと、いろいろかけあってきたのですが、やはり行政というのは縦割りで、場面ごとの関わりはあっても、全体を通しての答えが出せないというのがあって。じゃあどうしたら答えてもらえるのか、答えてもらえないなら自分たちで答えられる組織を作るしかないということで、実行委員会形式にして、横をつなげるっていうのを、目標に6年間やってきたんですね。それで6年目でようやくこのテーマでやれるようになった。そういう意味では、ぜひ皆さんも証人として、本当に「ふたたび、ひらいたのか」「このひらき方でよかったのか」と足を運んでいただき、考えてもらえるといいかなと思います。
 続いて、庄子さんのお話もお願いしたいのですが、庄子さんは、毎月第2日曜日にビーチクリーン活動している方で、海が身近な方でもあります。今日ここまでの話を踏まえて、どうでしょうか。

深沼ビーチクリーン フェイスブック

庄子:そうですね、武田さんがこの会の最初に、「夏だけで申し訳ない」と繰り返しているのは、実はすごい重要で、私が震災の後にずっと感じてきたのは「荒浜って夏だけじゃないんだけどな」ということなんです。もちろん自然環境というのはかなりきびしくなりました。松の木がなくなったりして。人が住まなくなったところでの活動というのは、大変です。自分が管理しているところが荒されたりとか、ゴミが捨てられたりとか、あります。そう言った課題を見つつも、「冬の海はきれいだね」とか、春に波風に吹かれながら、木陰で本を読んだりするっていうのは、実はすごい気持ちが良かったりします。この、海水浴だけじゃないっていうのが、今回の、この不思議なタイトルに含まれているっていうのが、この6年間だったんだと思います。4日間だけのイベントではないんだ、というところから始まり、町内会の方とか、行政の方とか、関わった企業の方とかと話し合いを、繰り返してきました。
 なので、今回は良いきっかけになればと思います。ただ、先ほど高山さんが言っていたように、これまでのこともしっかりと総括していかないといけないと思います。もちろん、行政のやってきたことなので、記録や報告書、予算もサイトで見れます。興味があれば見て、おかしいと思えば、声に出して良いと思います。ただ、なんでそういったことが続いてきても、特に何かにつながらなかったかというと、関わる人がみんな点で、私もそうですけれど、みんな点で活動していて、それが生業というわけでもないですし、普通でしたら、そこに住民がいるわけですよね。だけど、いまは住民がいないので、話をする場が見えてこなかった。これからは、こういった課題などを知ってもらう機会をどんどん作っていければいいし、今回がそれになれば良いかなと思います。

武田:ありがとうございます。庄子さんのお話にも、答えに近いヒントがありましたね。今回は実行委員会形式になったので、さらにしっかりと予算も開示していけると言うことになります。いきなり額を聞くと、結構驚く額かもしれませんが、実際に動き出していくとあっという間になくなってしまう。そして、それが適正なのかどうか、というのは、中身の必然性を含めて、いろいろな考え方があると思うので、正解がないと思います。そして、夏だけじゃなくて、様々な季節に荒浜に来ていただけるようになること。その来ていただけるというのは、誰を思い描いているのか。かつて荒浜で暮らしていた方たち、これから荒浜を訪れる方たち、庄子さんや高山さんのような現在活動している方たちが、良い形で続けていけるような、こう言うと本当に理想論な感じですけど、その方たちが見えてくるか、見えてこないかで、こうした企画もリアルになってくるのかなと思っています。
 高山さんは今年の3月に、地域の方たちの声を集めた映像を制作されたり、8月に灯籠流しもあるということで、関わっている人たちとの繋がりがいろいろあると思うのですが、その中で自分が今どういうことを感じているのか、関りが、点から面になっていくことにどうような思いがあるのか、聞かせていただきたいのですが。

高山:はい。自分が荒浜地域でなにか始めたきっかけというのは、2012年の3月11日でした。地域の方々が帰ってこれる場づくりを数人の同級生たちと始めました。3月11日が近くなると、心がざわつく、そういう友人もいて、ではなにかできることはないか、と考え、いろいろな思いがある中で亡くなった方々を悼み、思いを馳せるため色とりどりの風船を飛ばそうとなりました。2012年の3月11日は1,700人の方が荒浜地区にいらっしゃいました。地域住民の方もたくさんいらっしゃっていて。風船が飛んでいるのを見て、涙を流している人がいたり、手を振っている人がいたり、「バイバイと言わないとね」と言っている人がいたり、この光景を見た時に、ここは日常的に人の思いは介在しない場所になってしまったんだなと思っていたけど、この時だけは、目には見えないけれど、そうした人の思いがあったので、こういう事だったら、自分たちも続けていけるんじゃないかなって思えたのが、活動を始めたきっかけです。そこから荒浜地区の伝統行事であった灯籠流しも地域の方々の理解を得てやっていくことになるのですが、徐々に関わる人たちが増えてきました。ぼくよりも一回り下の世代の方、当時子供だった方、小中高生だった方とも一緒に場づくりを行っています。また、震災前に荒浜に海水浴に来ていて、海に思い出がある方とか、3月11日に思いを馳せる場がほかにないから、ここに来たという方とか、多くの方々が関わってくれるようになりました。
 今回このイベントをやるにあたって、同級生とか、下の世代の子たちに意見を聞いてきたので少し紹介したいと思います。「震災前のような海水浴場として開かれるのであれば、今は子供がいるから連れて海水浴に行きたい。浜辺で過ごせるのはいいかもしれないが、まずは海水浴ができる海に戻ってほしい。(膝下までではなく)」同様の意見はけっこうありました。また、ちょっと辛辣な意見もありました「今回このような案内を見ただけでは、なんのイベントかわからない。海に入れるのか、どうかわからない。入れないのであれば、多分行かないと思う」 そのような意見がありました。武田さんから聞いていた、例えばライフセーバーの方が足りないなどの課題もあるとは思うのですが、そういうのを度外視して、まずは膝下までという制限がなく、海に入れる状況を求める声があることが、ぼくが聞いた範囲ではあることがわかりました。元地域住民の方々は、以前の原風景というか、震災前のような海水浴場に戻ってほしいということを望んでいるという声が多かったです。ただ、いま、この会場にはこうした声を聞いた子たちはいないんですよね。震災当時、子どもだった子たちは、今日のイベントに足が向かない。だけど、聞けば答えてくれるし、なにも思っていないわけではないんですよね。
 先ほど、お金の話をちょっとしましたけど、それは別に観光課のことが憎いとかではないんです。一生懸命なんです、役所の方々も、海水浴を開くことに関しては。自分たちのミッションだから、一生懸命がんばってくれますし、こっちの言葉にも耳を傾けてくれたり、くれなかったりしますし。ただ、今日のこの会は単に「海をひらく」っていう話ではないと思ってるんです。 震災から閉じられた海を「ふたたびひらく」ということは、先ほど武田さんが言っていたように、この6年間で考えていた「町をひらく」ということにつながるんじゃないのかなと思っています。具体的に、それはどういうことなのかというと、いま、ここにそういう若い子たちがいないように、元地域住民の方々の心情とか、思いを、誰も聞かなくていいのかなって思うんです。以前、「それを役所はできない」と仙台市の方には言われましたけど、そのことを皆さんにも考えてもらいたいんです。もちろん、皆さんの声も大事だとは思います。ですが、元地域住民の人たちの声を聞かないまま、海がひらかれる、町のことが決まっていく、そうなると、自分たちが声を出しても叶わないから「諦める」ってことにつながっていくんですよね。なので、もしここがスタートだとしたら、そういう地域の人たちにしっかりとアプローチをすべきなんじゃないのかなと思います。 今日メモ館のフェイスブックをみて、「開催します」と能動的に書いていますが、このイベントに場所を「ただ貸しているだけなのになぁ、とちょっと思いながら来たんです。この場所は沿岸部のゲートウェイとして開いているのに、地域住民の方々に対するアプローチ、少なくてもぼくが知っているような若い世代に対しては、ほとんどないんですよね。荒浜小学校も最近になって少しずつそういうところに目が向けられるようになってきましたけど、今後それは誰が担うのかっていうことはあると思うのです。
 ただ、ここでひとつ問いかけたいのは「もういいんじゃないか。もうそこには誰も住んでないから、もういいんじゃないか」っていうのも、ひとつの意見だと思うんです。11年も経っているし、そう思う人がいても仕方がないのかもしれない。でも「そうじゃないんじゃないか」「荒浜に住んでいた人たちの意見を聞くべきじゃないか」と思っている人がいたら、今日は海水浴の話ではあるんですけど、ふたたび町をひらく話だとも思うので、そういうところにつながっていけばいいなと思っています。

武田:ありがとうございます。これもちょっと補足になってしまうのですが、高山さんや庄子さんは実行委員会のアドバイザーに入っていただいているのですが、内容の話ではないんですね、テーマの部分なんです。今、お話に出てきた「いつの間にか、海がひらかれてしまう」「町のことが決まってしまう」その時に、地域の方たちの声が届かない。そのことがずっと気になっていました。そして、イベントに対しての意見「よくわからない」「海水浴できないなら行ってもしょうがない」は、実際にイベントを立ち上げる側の自分としては正直つらいのですが、おかしな言い方になってしまうのですが、こうしてイベントを立ちあげることによって、いろいろな意見が出てほしいんです。そして、この形でも立ち上げないと、以前のようなイベントが行われてしまうのではないかと思っていたんです。なので、この形で始めたわけですが、「これではない」という意見が出てきて良いと思っています。ただ、そうした意見に誰が、どのように答えるのかは大事になってきますよね。内容や予算に関して、自分が答えるには限界があるので。また、大事になっていくのは、意見の聞き方ですよね。先ほど高山さんが聞いてきてくれたような意見が届かないまま、消えていってしまうのは、ほんとうに良くない。このイベントに限らずですが、絶対なにかしらの手を打たないと、いろいろな順番が変わってしまうと思うんです。6年前からやっていたのは、イベントをやれば、いつか声が聞けるようになるだろう、という発想だったと思うんです。ところが、やっぱりその順番はいつまで経っても、変わらない。なので、今回はいろいろ言ってほしいと思っています。庄子さんはどうでしょうか。

庄子:そうですね。私はこの実行委員会形式になったのは、とても良いと思います。私は普段は大学図書館で働いています。それで大学図書館ではない、公共図書館というのは税金で運営されているのですが、税金払っているからみんな使っているかっていうとそうではなくて、住民の40%が使っていれば良いと言われているんですね。だけど、それによって文句が出るかと言うとそうでもない。そこで仕事柄「なんで図書館に人が来ないんだろう」と考えるんです。それで、ある時ある場所で学生にアンケートをとったら、「ご飯を食べる場所がない」という意見が、その学校の中では多くあって。だけど、本来図書館というのは、本が汚れたりすると問題になるから、中で飲食するなんてもってのほかだったんです。ところが、そこの大学は「食べる場所がないなら、図書館で食べても良いんじゃないか。もし本が汚れても、以前と違って、いまはそんなに高価なものではないから、買い換えたらいいのではないか。みんなに気をつけてもらいましょう」となったんです。そうしたら入館者がすごく多くなったんです。私のように司書の資格取って、仕事をしている人からしたら「そんなことで人に来てもらってもいいのか」と思ったんです。ところが、今回のような企画もそうですが、なんて言うのかな、まずはやってみるのもいいのかなと思ったんです。私や高山さんが関わって、行政の方たちに考えを聞いてもらったというのは良かったと思うのですが、やっぱり、そこにたくさんの人たちが来ないと、それこそ多様な意見っていうのは聞けないのかなと思ったんです。そして、そこに来る意味を考えながら、恐らくレジャーに来る人ってあまりいないですよね。もちろん、イベントを開く側は意味をしっかり持っていてほしいです。ただ、そこのバランスっていうところが、もうちょっと、なんていうのかな、自分も頑なになっていたところがあったので、まずは来た人たちを迎え入れて、そこで話を聞く場ができればいいかなと思います。さっきも、荒浜に行っていたのですが、そこで楽しんでいる方たちは、ここにこの話は聞きに来ないわけですよね。そういう意味でも「荒浜に人が来る」という意味では、逡巡する思いがあるのですが、「ひらく」という意味を自分も改めて考えていきたいと思います。

武田:ありがとうございます。そうなんですよね。来てくれる方が、ホームページで今までの経緯を知ってくれたり、今日のような場に来て話を聞いてもらえれば、いろいろな議論もできると思うのですが、実際に来てくれる人たちはチラシを見て「わかんない」と思ったり、「とりあえず行ってみるか」と思ってくれるんですよね。そういう意味でも、さっき言った ように、正解がないにしても、ヒントを出し続けるしかないのかなと思っています。

高山:ちょっと良いですか。今日、ぼくはあえて嫌われ役を立ち回ろうと思って来ていて、先ほど、地域の方の意見を伝えたのですが、逆を言うと、こうじゃない開き方って難しかったんだろうな、って思います。これまでの6年間のプロセスを踏まえると、もっと地域の声の聞いてほしいというところはありつつも、現状このような形になるのは仕方ないことだろうなとは思っています。

武田:ありがとうございます。ぼくとしても、高山さんが厳しい意見も含め、みなさんに聞いてくれたことが嬉しいです。ここで、そろそろ仙台市の観光課からの意見も聞きたいと思います。

オープニングトークイベントの様子

日下和彦:はい。仙台市観光課長の日下と申します。よろしくお願いします。いろいろな思いを伺いました。私は震災当時、経産省に出向していました。そこで最初に聞いたニュースが、荒浜の被害状況だったのですね。そのニュースを聞いて、震えました。東北が大変なことになっている、と。4月に戻ってくる予定だったのですが、戻ってきて最初にしたことが、瓦礫の処理でした。その後、東北の復興を発信するという仕事をして、国連防災世界会議やG7の誘致をして、メモ館ができる時も関わりましたし、荒浜を含めた沿岸部のことを国内外に向けて、発信するという仕事をしてきました。縁あって、この4月から観光課長として戻ってきたわけですけど、これまでの海水浴場再開の動きというのを、改めて確認しました。
 そして、先ほどから予算の話が出ているのですが、全然隠すことではないので、少し申し上げると、平成22年、震災前ですね。その頃は深沼海水浴場として30日開いていて、5万人くらいの方が、いらっしゃっていました。当時は海の家が複数あったり、バーベキュー広場があったりと、大変賑わっていました。その深沼海水浴場が震災で被害を受けて、開けなくなってしまった。そこで仙台市が実際に海水浴再開に向けて、動きだしたのが、平成29年なんですね。その時は2日間の開催をしようということで、小学生対象の体験講座とかもしたんですね。ただ天気が悪かったと聞いていて、100人に満たない数の方しかご利用できなかったんですね。仙台市としては、海水浴場を如何に再開させるか、という観点があったので、観光課が担当になり、実験的に始めたんです。それで、実際いくらかかっていたんだ、という話なんですが、実は海って、結構お金かかるんです。震災前はですね、観光コンベンション協会が発注する形で様々な取り組みをしていて、1800万円ほど市が負担していました。ただ、それは地域の方々がすごく頑張って下さっていたので、この程度で済んでいたんです。1800万円で5万人の方が、楽しんでもらえたと考えると、役所的には費用対効果があったと言えると思うんです。駐車場の運営なんかも地域の方のお力をいただいていたんです。
 ただ先ほどからも、お話に出ているように、今、地域に住んでおられる方いらっしゃらない、担い手の方がいらっしゃらない状況で、海水浴を再開していこうとなった時に、29年度、2日間で 2800万円かかっています。 私どもとしては、あくまで再開に向けた実証実験だったので「こんなにかかったからダメだ」とか、そういうのではないですね。実際、再開を待ち望んでいる声もたくさんいただいたんです。それで次の30年度は4日間開催して、ただ、これも2日間天候が悪く、実際は2日になってしまったのですが、これも3000万円かかっています。この2年間は、避難の関係で大きな課題がありましたので、対応できる人数が限られていました。事前申込制を採用して、一日最大600人だったのですが、最終的には300人ぐらいの方に来ていただきました。次の年、令和元年も4日間でしたが、この年は4日間できました。同じように600人事前申込制で、4日間で1600人くらいの方にご利用いただいたという状況でした。その時に、様々な意見を聞いてですね、海水浴場を皆さん求めているのか、それとも地域の賑わいを求めているのか、または海に対しての思い、被害を受けられた元住民の方が海に行けない、という意見も聞いていました。ただ私たちとしては海水浴場を求める声が大きいと思っていて、このコロナの2年間も準備をしてきたんですね。ただその時に、高山さんがおっしゃったように、地域とのやり取りがもっとあった方が良かったんじゃないか、というのは私もすごく思います。海水浴場を再開するという非常に大きな目的に向けて進めていく中で、もしかすると、様々な声というのが拾えてなかったんじゃないかなっていう気はします。そこで今年度は実行委員会方式で、高山さんや庄子さんのご意見、あとは事前に連合町内会長さんたちからもご意見もいただきました。それで、今年は、先ほどライフセーバーの話が出ましたが、それだけではないんです。これまでの実証実験も踏まえ、海水浴に限らず、もう少し「面的」に荒浜に賑わいを取り戻す実験をした方がいいんじゃないか、という話を何度もしているうちに、今回のイベント内容につながったと考えています。今までのように4日間だけだと、予定が合わなければ参加できない、また地域の方に 一番来ていただきたいのですが、例えば観光客や荒浜以外の仙台市民の方にも、荒浜の魅力を知っていただきたい、そういった思いもあって、2週間のイベント期間として、ナイトイベントなど、いろいろな取り組みを行い、思い思いに海を楽しんでいただくイベントとしました。ただ、それが正解かどうかわからないですが、今年度はこれが正解なんだと思って、まずやってみたいと私たちは思っています。そして、今回いただいくたくさんの事を踏まえて、また次年度、その次の年と、荒浜の賑わい創出に向けて、持続可能な方法を考えていきたいと思っています。

武田:ありがとうございます。いくつかの回答があったと思うのですが、庄子さんは聞いてみて、どうですか?事前の打ち合わせで、仙台市の関わり方や予算のことを聞いてみたいと言っていたので。

庄子:そうですね、金額を聞けば、高いなぁと思いますね。ただ、やっぱり人が集まるっていうところで、行政がやるとなると安全というところが最重要になってしまうでしょうから、仕方がないのかなと思いますね。そういう意味でも、予算の2000万円の内訳とかもわかっていければいいんでしょうけど。話の中で、昔の地域の人たちの尽力があって、というところもありましたが、これから先の話になりますけれども、跡地利活用事業者の方たちとか、いま、荒浜で活動している人たちというのは、これからの荒浜の町の人たちになっていくわけですから、そこをどうやって取り込んでいけるか、自分事として関わっていてもらえるかが大事になっていくわけですけど、そうなると賑わい、という話になっていくと思うのですが、そうなる前に、先ほど高山さんが話していたようなことを、一回踏むか踏まないかっていうのは、全然違うと思うんですよ。それを踏もうとしてこなかった、という課題はあったと思います。そこで、今回の実行委員会方式っていうところが、なかなかわかりにくいと思うんですけど、この組織体の違いで、ずいぶん違うと思うんです。なので、そのきっかけにもなるかと思っています。

武田:ありがとうございます。予算と経緯の説明から「地域の声」という共通のキーワードが出てきて、そうなっていくと、地域の声の拾い方の話になっていくと思うのですが、どうしても、かつての町内会長さんたちというのがあって、6年前から観光課が話を聞くのは、どうしてもそこになってしまう。これは従来どの組織でも、おそらくそうですよね。自分が住んでいる町内会で、町内会に入ってない人の意見はなかなか通らなくなってしまう。自分もいろいろな団体に関わることがあったのですが、理事や役員にならないと、意見が届かない。そうなんでしょうけど、そうなると、先ほど高山さんが言っていたように「言っても無駄だ」となってしまう。そうならないようにするには、どうしたら良いか、ずっと考えています。もうひとつは、今までの聞き方って「こういうイベントやります。こういう内容になっています」なんですね。これは意見を聞くのではなくて、報告会、説明会になってしまう。今回はなんにもないのような企画で、それでも決めてしまった部分もあるのですが、このなにもない状態だからこそ、いろいろな意見が出てくる方が、ぼくは良いと思っています。もちろん、出た意見、全部叶えることが良いとは思わないけれど、叶えるにあたっては、問いかけられた事に「じゃあどうしたらいいんだろう」と考え続けることが大事になっていくと思います。

オープニングトークイベントはここからも、いろいろな方に出ていただき、お話が続きました。かつての荒浜、かつての海水浴の話は佐藤優子さんと佐藤豊さん。荒浜の人はあたたかく、いつも声をかけあっていたこと。海水浴の時期になると、海の家はとても賑わっていたこと。スナガニなどがいまも浜辺にいて、自然が身近に感じらえること。くよくよしたり、落ち込んだりした時に海を見ると、悩みがちっぽけに思えること、などをお話いただきました。

オープニングトークイベントの様子

仙台海手ネットワーク事務局長の榊原進さん。「にぎわい」という言葉がマジックワードになっていて、人が多く来れば良いという風潮があるが、荒浜という場所の「にぎわい」というのは、様々な考え方があるのでは。地域と人が「ゆたかさ」に関わり、それぞれの「ゆたかさ」をつくっていくことが大事なのではないか、というお話でした。

跡地利活用事業者の今野不動産株式会社の本田勝祥さんは、地域への思いがあって、跡地利活用事業に申し込んだけれど、知れば知るほど、考えれば考えるほど、この地域に関わり、新しくなにかを始めることの難しさを感じている、とお話いただきました。

また、高山さんから、同級生の方たちの海水浴に行っていた頃の話で、波が高く、危険な場面も多く、それも含めて、海水浴を楽しんでいた、というお話があり、会場のみなさんもうなずいたり、笑ったりしていて、荒浜の海水浴に行った時のことを思い出しているようでした。

もちろん、ここには書ききれないほどのたくさんのお話、意見があり、今後このサイトでもいろいろな方の言葉を紹介できればと思ってはいます。ただ、この会でみなさんの意見で繰り返し出てきた「地域の声の聞き方」を考えると、果たして、このやり方で良いのか、改めて考えてもいます。

オープニングトークイベントの様子